CVCを設立、運用する目的は企業によってさまざまです。その実現したい目的によってどういう投資(出資)を行い、投資先とどうかかわっていくのかが変わってきます。CVCの目的として戦略リターンと財務リターンがありますが、戦略リターンの具体的な内容として例えば下記のようなものが考えられます。
(1)情報収集
・社外のイノベーションや市場動向に目を向け新しい領域に関する洞察を得る
・自社ビジネスを推進する技術や事業を把握する
・自社ビジネスを脅かす技術や事業を把握する
・自社の技術開発を補完あるいは強化するような技術を探索する
・グローバルなCVC拠点の設立などにより事業のグローバル展開を図る
(2)協業
・スタートアップの製品あるいはサービスを再販する
・新たな技術の導入あるいはスタートアップの顧客になることにより業務を効率化する
・新しい製品あるいは新サービスを共同開発する
・自社技術をライセンス供与する
(3)M&A
・M&Aパイプラインを構築する
・株主として注意深くモニタリングを行いM&Aの事前調査を実施する
(4)企業文化の変革
・スタートアップから起業家精神とダイナミックなエネルギーを獲得する
CVCではスタートアップに投資をすることになりますので、投資家として情報開示請求権(Information Right)を獲得し、株主として財務情報も含めた経営に関する情報を入手できる立場になります。それを有効に活用して実現できる戦略リターンとしては、上記の(1)と(3)が考えられます。(1)については、親会社の現在の事業あるいはその周辺分野の情報に加えて、新しい市場や技術などの新しい領域の情報や洞察を獲得することも重要です。海外のCVCでは、情報収集およびM&Aのパイプライン作りをCVCの主な目的にしているところが多く、(2)の協業を投資の目的としているCVCは少ない印象です。海外ではスタートアップへの投資を行うCVCとは別に、親会社の課題を解決するためにスタートアップのクライアントとなるベンチャークライアントモデル(VCM)のチームが存在し、CVCと連携しているケースもあります。海外で(2)の協業をCVCの目的としている場合は、比較的レイトステージのスタートアップが対象で協業のパターンも決めているケースが多いようです。国内のCVCではステージの早いスタートアップであっても、投資検討の前提として協業あるいは協業の可能性を重視しているケースが多いようですが、この場合は投資の意思決定に向けてのハードルが高くなってしまい、投資が進まないというケースも多くなります。財務リターンは1円単位で定量的な評価ができるため “Financial Return” と考えてもいいかもしれませんが、戦略リターンはそういう評価が難しいため、 “Strategic Insight” の獲得と考えることもできるかもしれません。
(1)のケースでは、CVCチームが収集した “Strategic Insight”をどのように親会社と共有し、親会社側もそれを全社的にどのように活用できるのか常に考えておく必要があります。例えば、CVCから得られる親会社の現在の事業分野を超えた新しい領域に関する洞察は、親会社の今後の戦略的選択肢を検討する上で重要であり経営判断のための材料にもなりうるものと思われます。投資先であるスタートアップから獲得できるあらゆる情報や関係性を親会社のイノベーション、コスト削減などに活用できるかどうかという視点で、常に注意深く投資先とかかわっていく必要があります。投資先との関係性においては、親会社の強みを活かして投資先の成長を支援していくことも重要です。投資先が成長しなければ親会社にとっての戦略リターンの実現も困難となります。また、それを効率的に進めるには横断的に社内を見ている経営陣の関与も重要です。そのために(4)のようなことを意識して、親会社の経営陣と投資先の経営陣が交流できるようなイベントや機会を設けることも有効であると思われます。CVCの目的は企業によって異なりますので、他社の事例を参考にすることも重要ですが、自社のCVCの目的と目標を明確に定義し、それらを達成するために長期的かつ全社的な視点で、自社独自のCVC及びCVCの活用の在り方を考え実践することが、CVCの有効性をより高めるために必要なことではないかと思われます。
CVCにおける戦略リターン

