シードステージのVC投資においては、SAFE(Simple Agreement for Future Equity)に代表されるコンバーティブル・エクィティが利用されるケースが増えているかと思います。これはコンバーティブル・ノートにおける負債としての要素(満期日、利子など)を設定せず、将来株式に転換することを目的に簡易な手続きで資金調達を可能とする手法で、大きな特徴はバリュエーションの交渉を次の資金調達ラウンドに先送りすることにあります。シードステージでSAFEを利用した場合は、通常は次のシリーズAで決定された株価をあらかじめ決められた割引率でディスカウントした価格でシリーズAの優先株式に転換されることになります。SAFE保有者は早期投資のリスクを取っているので、それに見合うアップサイドとしてディスカウントを要求します。
SAFEを利用する場合に、バリュエーション・キャップ(以下、キャップ)が設定されることがあります。これは次の資金調達ラウンドで予想以上に高いバリュエーションが設定された場合に、SAFE保有者はディスカウントされた株価で株式に転換されても予想よりはるかに少ない株式しか取得できない問題を解決するために、あらかじめ転換するバリュエーションの上限額を設定しておくものです。キャップが設定された場合、キャップ以上のバリュエーションで資金調達できた場合はいいのですが、新規の投資家がキャップをバリュエーションの上限とみなして交渉するケースもあります。また、キャップが小さすぎる場合、創業者の持分の希釈化が過度に進んでしまう可能性もありますので、資本政策上は注意が必要です。
最近の資金調達の動向(特に海外)を見ていますと、このSAFEがシリーズA以降のラウンド間の資金調達手法として利用されるケースが多くなっている印象です。シードステージですと、その前の資金調達ラウンドがありませんので比較的シンプルですが、ラウンド間で利用すると考慮すべき点が増えてきます。例えば、既存の優先株主には通常は新株に対するプロラタの優先引受権が付与されていますが、ラウンド間でSAFEを発行した場合は次の資金調達ラウンドにおいてSAFEでの調達額と既存投資家のプロラタの優先引受権を考慮すると、新規投資家に対して十分な持分を提供できないケースが出てきます。これは、次の資金調達ラウンドのリードインベスターを確保することに対して大きな障害となる可能性があります。また、ラウンド間でのSAFEは新規のリードインベスターを見つけられなかったというネガティブなメッセージととられる可能性もあります。
CVCの投資においても、SAFEのラウンドを検討する機会も多いかと思います。SAFEは起業家および既存投資家にとっては迅速に資金調達できる手法として有効ですが、新規投資として検討している場合は、特にラウンド間のSAFEを利用した資金調達ラウンドは慎重に検討する必要があります。ラウンド間でSAFEを利用して資金調達しているということは、リードインベスターを決めてバリュエーションも含め条件交渉することを先送りしているということですので、その理由を把握する必要があります。その上で新規投資家として意味のある投資のタイミングおよび条件と判断できるかどうかが重要かと思われます。
VC投資におけるSAFE
