大学発研究成果の事業化

米国のあるVCは大学あるいは国立研究所の研究成果をゼロから事業化するというプロジェクトへの投資で実績をあげています。このVCでは、スタートアップからビジネスプランが届くのを待つのではなく、パートナーが実際に大学や研究所に赴き、まだ事業化されていない画期的な科学技術を特定するところから始めます。その技術が商業的潜在性があると判断すると会社を設立して暫定的な経営陣となることもあり、資金だけではなく経営ノウハウなども提供しています。このVCはもともと米国のある大学の研究成果を事業化するプロジェクトから始まっています。当初は大学の教員が研究活動に何か制約が発生するのではないかと疑問を持つなど、大学内の抵抗勢力もけっこういたようです。利害が対立すると考えていた関係者の協力を引き出すために、この活動の目的は利益を上げることであると提案し、事業化が成功すれば研究者個人にも経済的インセンティブが提供されるということを理解してもらい投資活動を推進しました。シードステージの投資が多くなるため常にあらゆるリスクがあることを認識し、特に技術リスク、市場リスク、財務リスクには注意を払っています。技術リスクは積極的に許容しており、それに伴い投資の期待マルチプルは大きくなります。それを実現するために市場で支配的なポジションが確立できるような強力な競争優位性があるかどうかを評価します。将来の資金リスクを低減するため、シンジケート投資を徹底し常に共同投資家との協力関係を重視しています。他の投資家と共同投資することで、共同投資家の才能や洞察を理解できるようになり、直面する技術リスクや市場リスクをより深く把握できるようになったようです。また、このVCでは画期的な技術を特定しますが、その技術に恋をすることを戒めていました。技術に恋をしてしまうと、その次の段階である商業的潜在性の評価がおろそかになってしまう可能性があるためです。最近ではファンド規模も大きくなり、レイトステージの追加投資も積極的に行っています。ただ、追加投資はあらかじめ設定されているマイルストーンを達成したときのみ実行され、そうでない場合は容赦なく会社を閉鎖し人材を新しいプロジェクトに配置することを選択することもあるようです。

上記のVCの活動や考え方の中でCVCとしても参考になる点がいくつかあると思われます。
(1) あらゆるリスク(主に技術、市場、財務)に常に注意を払う
(2) シンジケート投資を徹底する
(3) 利害関係者のインセンティブを整合させる

(1)については、ステージの早い投資であればあるほど、あらゆるリスクに注意を払う必要があります。技術リスクを積極的に許容し資金提供も含めて主導的にプロジェクトを推進する上記のVCの取り組みは、CVCとして戦略リターン実現のための親会社内の新規プロジェクトの組成および推進において参考になる点があるかもしれません。
(2)については、投資先の将来の資金需要に対して資金リスクを分散できる効果が期待できます。CVCとしてリードインベスターにならない場合は、リードインベスターが誰かということも含めて、どのようなシンジケートが組まれているのか注意を払う必要があります。また、投資後はそれぞれの投資家の得意な分野で投資先を支援することにより、投資先の成功確率を上げることが期待されます。
(3)については、スタートアップの新しい取り組みのような不確実性の高いプロジェクトを成功させるためには、利害関係者の努力の方向性が一致している必要があります。上記のVCでは活動の初期段階で取り組みの目的を「利益を上げること」に特定し、それは個人の経済的インセンティブにつながることを明言し実行しました。個人レベルの経済的インセンティブは困難なプロジェクトを成功させるための強力な動機付けとなります。CVCにおいては、個人レベルでの成功報酬は難しいケースも多いと思いますが、起業家およびそこに投資をしている他のVCはスタートアップの成功の先にあるエグジットにより財務リターンを実現することを主要な目的としていますので、CVCとしても戦略リターンの実現に向けて努力するともに、財務リターンの実現のために投資先を支援していくことも重要です。