CVCの自律性と親会社への貢献

米国のあるCVCでは、投資を実行するチーム(投資チーム)と投資先を支援するチーム(支援チーム)が分かれています。投資チームにおける投資の意思決定は完全に親会社から独立しており、親会社の戦略との適合性は投資の意思決定には何の影響も与えません。投資チームの役割は親会社に対して財務リターンを提供することにあります。財務リターンを実現するためには最高に有望なスタートアップに投資する必要があり、親会社との戦略的適合性はその制約になってしまうという考えがあるようです。支援チームには投資先にハンズオンの支援を行うために、多様な分野で専門知識を持つ専任のパートナーがいます。そのパートナーは自ら保有する専門知識で投資先をサポートするだけではなく、親会社の多様な専門家と投資先を結びつける役割を持っています。
このCVCの投資は親会社からの安定的な資金基盤をベースに、”Patient Capital” と呼ばれる長期的な視点で運営されており、スタートアップのコミュニティで信頼できる投資家として認知されているようです。投資の選定にあたっては、親会社の戦略との適合性はまったく考慮する必要がありませんので、投資対象は広範な分野に及びます。投資先の中には親会社のビジネスと競合するようなものも含まれていますが、その投資先の情報から親会社は最先端の技術を把握し、競合の脅威を分析し、自社製品では対応できていない顧客ニーズを把握することができます。親会社にとってCVCは長期的な視点に立った研究開発ラボのように機能し、下記のような貢献をしていると考えているようです。
・新しいアイデアやビジネスモデルを検証する
・将来の買収対象や人材を特定し育成する
・新たな高成長市場を探索する
・親会社にとっての将来の顧客パイプラインを構築する

上記のCVCから、CVCの運営に関して下記のような点が参考になるのではないかと思います。
(1) 投資チームと支援チームが存在し、それぞれ独立して運営されている
(2) 投資の意思決定が親会社の戦略との適合性に依存していない
(3) 投資チームは有望のスタートアップへの投資に専念し、財務リターンを実現する
(4) 支援チームが投資先を支援するため、親会社のリソースに自由にアクセスできる

(1)については、投資チームと支援チームはそれぞれつながるべきコミュニティと求められる専門性が異なりますので、別の組織として運営するのがいいと思われます。投資チームはVCやスタートアップのコミュニティの一員となり、信頼される投資家となれるようにVCとしての専門性や能力が問われます。支援チームは投資先を親会社をつなぐために必要な専門性や人脈が求められます。
(2)については、上記のCVCのように割り切るのは難しいと思いますが、投資の選定において親会社の(特に短期的な)戦略との適合性を強く求めるほど、投資対象となるスタートアップの母集団が小さくなってしまいますので、投資機会が減って投資活動そのものが停滞してしまうリスクがあります。
(3)については、高い成長が期待できるスタートアップに投資をしなければ戦略リターンの実現も難しく、財務リターンを実現するという目的はそのようなスタートアップを発掘し投資するということにも貢献します。
(4)については、支援チームは投資先情報の共有も含め親会社の専門家と常にコミュニケーションがとれる環境にあり、関連する投資先と結びつけることができる必要があります。これがCVCとしての大きな競争優位性となるとともに、投資先の成長を支援することにつながります。