CVCの難しさの要因

事業会社である親会社が本業のイノベーションを推進する方法の1つとしてCVCを検討することが多いと思いますが、その成果を出すためにご苦労されているところも多いかと思います。CVCの難しさの要因の1つとして下記の2つの難易度の高い取り組みを同時に進める必要があることが考えられます。
(1) VC投資を行い財務リターンを実現する
(2) VC投資から獲得できる情報や投資先との関係性を親会社のイノベーションに活用する

欧州のあるCVCでは、親会社を唯一のLPとするエバーグリーンファンドとして運営されています。ファンドの利益は再投資に振り向けられるため、財務リターンの実現は最終目標ではないもののCVCの事業継続の前提条件となっています。意思決定も含めファンドの運営は親会社から独立しており、かなり高い自律性を持っています。投資委員会には外部の専門家もメンバーとして含まれており、通常のVCと同じような迅速かつ偏りのない意思決定を可能としています。このCVCでは投資対象分野は親会社がこれからフォーカスする分野に絞り込まれており、CVCの投資を通じて親会社の長期的戦略への戦略的影響を実現することを目指しています。それを可能とするために、CVCチームとして経営陣全員とのコミュニケーションの機会をできるだけ設け、彼らがCVCに何を期待しているのかを常に確認しているようです。また、CVCが対話する幹部のレベルによってメッセージを調整することも重要であると考えており、経営陣とビジネスユニット(BU)では話す内容は変わり、経営陣にはより抽象度の高い経営戦略的な内容となり、BUとはより具体的な技術、製品等の話になります。CVCチームでは、できるだけいろいろな階層の関係者とコミュニケーションをするようにしており、例えば食堂で食事をしながら話をする等の日常的なシーンでもCVCへの理解を深めてもらうような取り組みをしているようです。

(1)の難しさは、どの程度財務リターンを重視するかによって変わってきますが、ここでは財務リターンを重視しそれを実現できるような経験豊富なVC人材でチームを構成できたと仮定します。財務リターンを実現するためには、それを実現できるような豊富な投資機会にアクセスする必要がありますが、親会社の戦略リターン、特に短期的な戦略リターン実現のため投資対象分野が絞り込まれていると投資機会の母集団が限定されてしまいます。また、投資分野を絞り込むことにより投資の意思決定への親会社の関与が強くなる可能性もあり、その場合はCVCの自律性が低下し財務リターン実現に向けてチームのモチベーションの低下等のマイナス要因となることも考えられます。これらはトレードオフの関係にあるものをありますが、CVCの目的に応じて最適な形態を検討する必要があります。
(2)の難しさは、親会社の本業とCVCというVC投資がそもそも異質なもので、CVCがどういうことに注意を払って行われており、そこから何が獲得できて、またそれをどう活用できるのかということが理解されにくいというところにあります。このハードルを越えるためには、上記のCVCが行っているように親会社における経営陣も含めあらゆる階層の関係者とコミュニケーションをとり、CVCについて理解を深めてもらうという地道が努力が、結局は一番の近道ということになるのかもしれません。最近では投資チームと親会社と投資先をつなぐチームを分けているCVCも多くなってきていますが、そもそもつながるべきコミュニティもやるべきことも異なりますので、(1)と(2)を別のチームとして分けるのはCVCをより実効性のある取り組みにするために有効な手段ではないかと考えられます。