有望な案件か 優れたガバナンスか

VCはスタートアップへの資金提供を基本的な役割としていますが、投資先のコーポレートガバナンスへの積極的な関与がもう1つの重要な役割となっています。これに関連してVCの成功の要因として、高い成長が期待できる有望なスタートアップを選定することなのか、あるいは投資先のスタートアップに対するガバナンスなのか、という議論があります。もちろんこの2つはどちらも重要ですが、二者択一ではなく順序とバランスの問題であり、投資選定の段階ではスタートアップのポテンシャルに重点を置き、投資後はガバナンスに焦点を移していくことになると思われます。
投資案件の選定において、どのような視点でスタートアップを選定するのかはそのスタートアップの事業のステージにも大きく関連してきます。投資案件を見る視点として「経営陣」、「市場」、「技術(競争優位性)」があるとすると、事業がすでに立ち上がっているミドルからレイトステージの案件であればこれらを総合的に判断していくことが可能で、事業のスケーラビリティに焦点をあてることができます。一方でシードからアーリーステージのスタートアップでは、まだ実現されていることが少なく将来の不確実性も大きいため、事業計画における「市場」、「技術(競争優位性)」を分析しながらも、「経営陣」の評価の比重が高くなってくるものと思われます。このステージの投資においては、海外では “Bet on the jockey, not just the horse.” という言葉もあるようです。もちろん投資後には馬が走りやすい環境を作ってあげることも重要であることは言うまでもありません。海外で現在ユニコーンになっているようなスタートアップでも、当初の事業をピボットして全く異なる事業に転換して大きく成長したところも少なくなく、「経営陣」のビジョンと変化に対する対応力が重要であることを示しています。いずれにしてもVCの投資リターンはべき乗則(Power Law)に従うと言われており、VCは常に大きく成長して莫大なリターンをもたらしてくれる可能性のあるスタートップを探しています。
スタートアップへの投資後はガバナンスに焦点を移していくことになりますが、これにはリードインベスターであるVCが大きな役割を担っています。通常はリードインベスターの担当パートナーが取締役に就任しハンズオンで投資先の経営監視と助言を行います。ガバナンスの役割としては、さまざまなリスクを低減しながら持続的な成長を支え、今後の資金調達ラウンドやエグジットに備える等が期待されます。ただ、いかに優れたガバナンスを確立しても平凡なスタートアップをポテンシャルの高いスタートアップに変えることは難しいので、ガバナンスはポテンシャルの高いスタートアップの長期的な成功の推進役であると考えられます。

CVCの投資においても有望なスタートアップを選定し、優れたガバナンスに関与することはもちろん重要です。CVCがリードインベスターにならないケースで考えると、基本的なガバナンスはハンズオンしているVCにお任せすることになることが多いと思います。この場合は、取締役会の構成や優先株式の拒否権(あるいは株主間契約書における事前承認事項)などを確認し、どのようなガバナンスがきいているのか確認する必要があります。その上でポテンシャルの高いスタートアップかどうかを選定していくことが重要ですが、CVCの場合は戦略リターンをその投資選定の中でどこまで考慮するかによって投資対象となる案件が変わってくるものと思われます。CVCとしても成長するスタートアップに投資をしないと意味がないことを考慮した上で、投資選定の条件を検討する必要があります。