VCとして投資案件が入ってくるとまず自社の投資方針等に照らし合わせてスクリーニングする必要があるかと思います。スクリーニングにはいろいろな視点があるかと思いますが、代表的なものに「人材」「技術」「市場」があると一般的には言われています。もちろんこの3つの視点はいずれも重要で最終的な投資の意思決定においてはすべてを包括的に評価される必要があるかと思いますが、最初のスクリーニングの段階でどれを特に重視するかはVCあるいはベンチャーキャピタリスト個人でさまざまではないかと思います。米国のベンチャーキャピタリストの草分け的な存在と言われている人たちでもどの視点に特に着目するかはいろいろな哲学があったようです。VC投資にはリスクが伴いますので、上記の視点を考慮すると投資において取るべきリスクとして「人材リスク」「技術開発リスク」「市場リスク」があるとすると、どのリスクを一番取りたくないかという議論と考えていいかもしれません。
過去にVCからの投資金額が大きかった業界で(新しい技術、既存技術)×(新しい市場、既存市場)の4つの象限でどこがもっとも新しいビジネスとして成功したかという研究がありましたが、それによると(既存技術、新しい市場)が最も成功したケースが多かったようです。これは技術開発リスクは取らずに市場リスクを取る方が成功確率が高いというメッセージと理解でき、「枯れた技術の水平思考」という考え方にもつながるものではないかと思います。
米国の著名なVCの創業者で「技術」に特に着目していた人がいたのですが、その人は「市場リスクは技術開発リスクに反比例する」という独自の考えのもと、最先端の技術を開発して、市場で差別化できるための競争優位性を高めることができるスタートアップを好んだとのことです。これは積極的に技術開発リスクを取って市場での競争リスクを回避するという考え方ですが、これにはいろいろな意見もあるかと思います。
別の米国の著名なVCのケースでは、VC投資のリスクとして市場リスクを最も取りたくないという方針を持ちながらも、現在は存在しない市場(新しい市場)を創出してそこで70~80%の市場シェアを取れるようなビジネスに好んで投資しているようです。
CVCでは案件スクリーニングの段階で戦略リターンとの関連が出てくるかと思います。どのようにスクリーニングするかは、戦略リターンをどう定義するかによって違ってきます。戦略リターンの実現形態として協業を想定している場合は協業可能性ということが重要な論点になるかと思いますが、これはなかなかハードルが高くここで却下される案件が多くなってしまうとCVCの活動そのものが活性化しなくなる恐れがあります。海外では長期間継続できているCVCでは投資ペースが速いと言われています。米国では協業をCVCの目的としているケースは少なく、社外で起こっているイノベーションを把握する、すなわち情報収集目的でCVCをしているケースが多く、この場合は比較的小口分散投資でいろいろなスタートアップに投資をしています。これらの情報をどのように活用するかは実現したいことによって変わるかもしれませんが、まずはそういう目的でCVCを推進するのも1つの形として考えられるのではないかと思います。