欧州のCVCの事例

欧州のあるCVCでは、設立当初は投資の意思決定のときにいろいろな部門の承認を得る必要があるなど非常に煩雑である上に、VCについて知見を持っていないチームと一緒に仕事をする必要がありかなり非効率であったため、投資意思決定プロセスを簡素化し、 ある一定の金額以下の投資については投資の意思決定の権限を下におろすというアクションをとったようです。
CVCの投資の目的については、親会社がどのような付加価値をスタートアップに提供できるかという考えを起点として、親会社が顧客となりうるような技術、製品、サービスなどを持っているようなスタートアップに投資すると定義したようです。当然、このようなスタートアップはある一定以上の品質や機能の製品あるいはサービスを市場に投入しており、すでにかなりの実績が出ているケースが多いかと思いますので、レイトステージの投資が多くなっているのではないかと推測されます。親会社に顧客になってもらうために、ビジネスユニットとはかなり密にコミュニケーションしているようです。この親会社は従来は大手企業と協業する傾向があったため、CVCのこのような動きはかなり補完的に効果を発揮したようです。
また、このCVCでは財務リターンにかなり注意を払っており、事業継続の前提としてCVCは財務的に健全に運営されていることが必要で、それを実現するためにCVCチームのバーンレートはかなり低く抑えるようにしているようです。このCVCはエバーグリーン・ファンドとして運営されているようで、投資先がエグジットして回収した資金はスタートアップへの再投資にまわされるようです。
上記のCVCの設立から運営にいたるプロセスの中で下記の点は参考になるのではないかと思います。
(1) CVCの投資の意思決定を権限移譲する
(2) 戦略リターンとして協業のパターンを定義する
(3) CVCの財務状況を健全に維持する
(4) エバーグリーン・ファンドとして運営されている

(2)については、欧州では米国と比較してCVCの目的として協業を模索するケースも多いようですが、上記のCVCの例でもあるように比較的レイトステージのスタートアップが対象で、協業のパターン(親会社が顧客になれるかどうか等)がある程度決まっていることが多い印象です。
(3)については、CVCの財務状況を健全に維持するために、バーンレートを抑えているというのは重要です。通常のVCファンドでもファンド規模(コミットメント総額)から算定されるマネジメントフィー(管理報酬)でファンド運営をできる体制にする必要があります。投資についても常にリスクに見合う財務リターンが期待できるかどうかに注意を払う必要があります。
(4)については、投資回収した資金を再投資にまわすのはかなり示唆的ではないかと思います。特に本体投資でCVCをされているところでは財務リターンをどう定義するかによって変わってくるかもしれませんが、IPOした銘柄を継続保有し必要に応じて再投資の原資とすることも考えられるのではないかと思います。もちろん、ファンドの場合も存続期間内であればリサイクル(再投資)するというケースも考えられます。