イノベーションについては過去よりいろいろな研究がなされていますが、イノベーションにもいくつかの種類があります。その中の1つに融合のイノベーションというものがあります。これはこれまで関連のなかった異分野のアイデアを融合することから生まれるイノベーションです。融合のイノベーションを実現するには人びとが広範なネットワークの中で複雑につながることが必要で、そのような交流の中から新たなアイデアや技術が生まれることが多く、異分野の人びとの交流の場こそが必要であると言われています。シリコンバレーがイノベーションのハブであり続けるのは、開放的で民主的なカルチャーの中で、いろいろなバックグラウンドの人びとが交流してアイデアを交換する場所や機会が多いことがその理由の1つと考えられます。ただ、その前提として実現したいこと、あるいは解決すべき課題が明確に設定されていることが重要で、イノベーションはそれを解決する手段であると考えることができます。
CVCがオープンイノベーションの文脈で設立され戦略リターンとして協業が想定されているケースもあるかと思いますが、スタートアップとの関係性から入手できる情報を異分野からのアイディアあるいは情報と位置づけ、親会社で設定している課題の解決にどう活かせるのか考えることも意味があるのではないかと思います。例えば、親会社の持っている技術を新しい市場に適用しようと考えた場合に、親会社及びCVCのチームは親会社の技術については当然熟知しているわけですが、それを新しい市場にどのように展開するかについてはいろいろなアイデアが必要になってくるかと思います。米国のあるCVCでは、自社製品の新たな対象となりうる市場に関連する複数のスタートアップに投資を行い市場に関する洞察を獲得するとともに、それらのスタートアップを支援して市場の成長を促進し、一部の投資先が自社の顧客になったという事例もあります。投資先のスタートアップから得られる情報やネットワーク、あるいはその経営陣との会話の中で出てくる親会社のものとは違った考え方やアイデアには、いろいろな活用の方法がありそうです。スタートアップとは相互に敬意を払いながら学び合うバランスの取れた関係を作ることが重要です。このようにCVCが親会社の課題解決のための情報源になりうるという観点から考えると、CVCの投資対象分野として親会社の既存の事業領域およびその周辺分野だけではなく、まったく新しい分野に投資対象を広げることも意味があると考えることができるかもしれません。また、親会社もCVCを通じて獲得した情報、知見、ネットワークなどを戦略策定等にどう活かしていけるのかということを常に考えておくことが重要であると考えられます。
CVCとイノベーション
