国内CVCの動向と課題

日本のVC市場は成長を続けており、特にCVCの成長が著しく、ここ数年間で国内のCVCはVC投資案件の約半分に投資をしていると言われています。日本企業(特に大手企業)は手元資金が潤沢でグローバルに事業展開しているケースが多いので、そのCVCも投資対象エリアが広く日本国内だけでなく海外のスタートアップに投資しているケースも多いかと思います。
CVCを直接投資で行う場合の組織形態としては、自社でCVCのチームを立ち上げるか外部のVCをGPとしてファンドを組成する2つの方法が考えられます。前者は本体投資とするか子会社をGPとしてファンドを組成するか2つの方法が考えられるかと思いますが、海外のCVCでは本体投資で行っているケースが多いようです。一般的に、戦略リターン重視の場合は自社で独自にCVCのチームを立ち上げるケースが多いようですが、これは投資判断、体制等も含め制度設計の自由度が高いためと思われます。
組織形態にかかわらず国内のCVCの制度設計上の課題としては主に下記の点が考えられます。
(1) 人事異動(ジョブ・ローテーション)
(2) 報酬体系(キャリー含む)

(1)については、日本企業の伝統的な人事異動がCVCチーム内でのVC投資に関する専門知識の蓄積を困難にしているという課題です。CVCを直接投資で行っている場合は投資案件をソーシングするために質の良いディールフローにアクセスする必要がありますが、これらの多くはCVCチームのスタッフの個人的なネットワークに支えられているケースが多いので、人事異動で人が変わってしまうとまた最初からそれを作っていく努力が必要となります。また、案件のソーシングから投資のエグジットまでの一連のVC投資を実行するためには経験の蓄積に基づいた知見、情報等が必要になりますが、それを他のスタッフに引き継ぐのは非常に困難です。VC投資は長いプロセスであり、繰り返される人事異動はCVCチームが長期的な成功のために必要な取り組みに集中するための動機付けや十分な時間を提供しないということも課題と考えられます。人事異動の制度を変えることは簡単ではないので、上記の課題に対してはVC投資の実務経験者を中途採用したり、外部のVCをGPとしてファンドを組成するなどの方法で対処しているケースが多いのではないかと思います。また、直接投資ではなくなりますが他のVCファンドへLP出資をして必要な情報収集を行うとともにVC投資のノウハウを獲得することも考えられます。
(2)については、通常VCファンドにLP出資する場合はGPであるVCに対してマネジメント・フィー(管理報酬)に加えてキャリー(成功報酬)をファンドより支払うことになりますが、これはGPのファンドの成功というインセンティブを高めるという意味で、GPとLPの利害を一致させる重要な方法となっています。GPに支払われるキャリーは当然そのVCに所属するパートナー個人に報酬として支払われますので、各パートナーの個人レベルで投資先のスタートアップを成功に導くための強力なインセンティブとなります。CVCチームのスタッフは親会社の給与体系になっているケースが多いと思いますので、投資先のスタートアップの成功とその先にある財務リターンを最大化するというインセンティブに欠けていると言われています。また、実績のあるCVCチームのスタッフはキャリーのある他のVCに転職するリスクも考えられます。
国内のCVCでは、そもそもCVCの目的の1つである財務リターンが明確に定義されていないケースもあると思われます。CVCの実効性を高めるには、CVCの目的である戦略リターンと財務リターンの両方を明確に定義する必要があり、あわせてCVCチームのインセンティブを高めるための制度設計が可能な範囲で必要になるのではないかと思われます。