数年前に米国の著名なVCが欧米のファンドについてオープンエンド型のファンドに移行すると発表して話題になったことがあります。このファンドは2つの部分から構成されており、ひとつはメインファンドで上場企業のオープンエンド型ポートフォリオを持ちます。もうひとつは、シード、ベンチャー、グロースなどの戦略を目的としたクローズドエンド型のサブファンドです。メインファンドとサブファンドは共生関係にあり、メインファンドは上場企業のポジションを売却し、その資金でサブ・ファンドに投資します。そして、サブファンドからの収益がメインファンドの資金となります。ファンドの構造はヘッジファンド等と類似している点もあるかもしれませんが、メインファンドはサブファンド投資のパイプラインから新たな資産を得るという点で異なります。このような構成にすることでこのVCはクロスオーバー投資家と競合するという指摘もあります。
このVCがこのようなファンドの構成にした理由の1つとして、このVCのこれまでの投資先で現在株式市場のリーダーとなっているような企業ではIPO前に未上場企業を長く続け規模を拡大することを選択した企業も多く、IPO後の成長をファンドの収益に取り込んでいくためには通常のVCファンドの存続期間である10年という期間が短すぎるという判断があるようです。
このトピックは、CVCの視点から見たときに財務リターンに対する考え方について参考になるところもあるのではないかと思います。財務リターンをどう定義するかにもよりますが、財務リターンをより大きくしていくために投資収益に投資先の上場後の成長をどう取り込んでいくという点です。CVCは出資という方法で投資先の株式を保有することになるので、財務リターンとしてこの株式をどのタイミングで流動化していくかという方針を策定する必要があります。ファンドでCVCをされている場合はファンドの存続期間という時間的制約があるのでそれに合わせて保有株式を流動化する必要がありますが、本体投資の場合はそういう制約がありませんので財務リターンの設計における自由度が高くなると思われます。将来の新規投資の投資原資の確保ということも含めて、上場株式の処分の戦略について検討することが重要ではないかと思われます。