VC投資における出資の意義

VCのビジネスは成長が期待できるスタートアップ(SU)に投資(出資)をして株式を保有し、その株式を経済的価値が上がった状態で現金化(エグジット)して財務リターンを獲得することを基本としています。VCが株式という形でそのSUの一部を保有することにより、SUの創業者と双方の利益の実現のために企業価値を上げるという共通の目標においてインセンティブが整合します。VCが保有する株式は優先株式であることが一般的となっており、スタートアップの創業者や従業員が保有する普通株式とは異なります。米国のVCが優先株式を使うようになったのは、税務上の要請がその理由の1つと言われていますが、現在ではダウンサイドリスクの低減とアップサイドの最大化に焦点が当たっていると思われます。そのための重要な優先条項としては、残余財産優先分配権(Liquidation Preference)、優先配当権(Dividends)、希釈化防止条項(Anti-Dilution Provisions)などがあります。また、優先株式には通常、VCがSUの重要な意思決定に影響を及ぼし、企業価値を棄損するとみなされる行為から保護するためのガバナンスに関する条項が付帯しています。それらには、取締役選任権、保護条項(Protective Provisions)、クラス別議決権(Class Voting Rights)などが含まれます。国内でも種類株式が整備され、米国と同じような優先条項を設計することが可能になっています。取締役選解任権および拒否権については、種類株式で規定してしまうと発行している種類株式毎に株主総会決議が必要となりSUの手続きが煩雑となるため、株主間契約の中で規定することも多いかと思います。

CVCでは事業会社によるVC投資という意味で、当然SUに出資することが基本であるかと思います。CVCにおいても、株式保有による投資家と創業者の企業価値向上というインセンティブを整合させることは非常に重要です。投資したSUが成長しなければ、財務リターンだけではなく戦略リターンの実現も困難となります。そういう意味では、上記のダウンサイドリスクの低減とアップサイドの最大化は、CVCにおいても常に注意を払う必要があります。戦略リターンについては、その定義にもよりますが、出資をしなければ実現できないこととそうではないことを意識して設計する必要があります。解決したい課題が明確な短期的な戦略リターンであれば、内容にもよりますが出資をしなくてもプロジェクトとして推進できるものもあるかもしれません。最近採用している企業が増えているベンチャークライアントモデル(VCM)はその1つの例と考えられ、まずVCMに注力してその後に出資をするというケースもあります。一方で、SUがターゲットとしている市場の洞察やSUの内部情報(財務情報、製品ロードマップなど)の獲得、ガバナンスへの関与(各種優先条項含む)などは、株主という立場でなければ実現が難しいものになります。また、CVCとしては、持株比率にもよりますがM&Aなどの機密情報への優先的なアクセス権、優先交渉権などの優先条項の獲得も想定されます。CVCの設計においては、実現したいことを明確にした上で、それを実現するために出資は必要なのかどうかという点も考慮して戦略リターンを検討する必要があります。