戦略/財務リターンのバランス

海外では戦略リターンと財務リターンの両方を重視するハイブリッド型のCVCが増えています。財務リターンを実現するためには長期的な資本のコミットメントが必要となるためファンド構造にしているところが多く、スタートアップへの投資については経験のあるVC人材で構成される専門の投資チームにより運営されているケースが多くなっています。。よりインセンティブを高めるため、通常のVCと同じようなキャリー(成功報酬)を提供しているCVCもあります。実際の投資においては通常のVCがリードしている案件に投資をすることが多いですが、共同あるいは単独で案件をリードするケースもあります。意思決定においては戦略リターン実現のための明確な戦略的ストーリーが必要とされ、財務リターンについては通常のVCと同じレベルのリターンを要求しているところが多くなっています。戦略的ストーリーをどこまで求めるかはCVCによって差がありますが、親会社との協業や提携まで求めていないケースが多いようです。財務リターンを重視しているCVCの中には、親会社との戦略的整合性はプラス要素ですが、すべての投資に必須ではなく、主に財務リターン目的で投資を行うこともあります。戦略リターンと財務リターンをトレードオフの関係とはみなさず、財務リターン実現の可能性を投資検討の前提として、それを示せない場合は持続可能な戦略的パートナーとなる可能性が低いと考えるCVCもあります。この場合、CVCからの投資が実行されなくても親会社との協業は検討を継続するというケースもあるようです。投資ステージとの関連では、アーリーステージの投資は新しい市場や技術の知見や洞察を獲得することが主目的で、レイトステージの投資は財務リターンの実現を主目的とするCVCが多いようです。いわゆるダンベル型ポートフォリオを指向しているものと思われます。

戦略リターンについて親会社の現在の事業とのシナジー追及か新領域開拓か、財務リターンについて実現の可能性が大きいか小さいかという2つの軸を使って4つの象限を考えたいと思います。戦略リターンの新領域開拓には戦略リターンは副次的と考えるケースを含み、財務リターンの実現の可能性が小さいというケースには財務リターンを重視していないケースを含みます。
(1) 第1象限:戦略リターン(シナジー追及)、財務リターン(大)
(2) 第2象限:戦略リターン(シナジー追及)、財務リターン(小)
(3) 第3象限:戦略リターン(新領域開拓)、財務リターン(大)
(4) 第4象限:戦略リターン(新領域開拓)、財務リターン(小)

上記の象限のどこを重視するかという観点からCVCを分類してみます。
(a) 戦略リターン重視:(1)+(2)
(b) 財務リターン重視:(1)+(3)
(c) ハイブリッド型:(1)+(2)+(3)

国内のCVCでは(a)が多いのではないかと思います。この場合は親会社の現在の事業に近接した分野への投資が多くなりますので、親会社のビジネスユニットとの連携による協業やM&Aの可能性が高まりますが、投資検討の対象となる投資機会が減少することになります。(b)では新領域開拓の対象の定義にもよりますが、投資検討の対象となる分野が拡大しますので投資機会の増加という意味で財務リターンの実現に寄与します。戦略リターンについては(1)について親会社のビジネスユニットと連携しながら、(2)において親会社にとって新しい事業機会となる市場や技術を探索することが期待されます。(a)と(b)は投資機会の母集団をどう考えるかという点でトレードオフが発生します。(a)において、戦略リターンとして現在の事業に近接するシナジー追及と同じレベルで新領域開拓を重視すると(c)のハイブリッド型が視野に入ってきます。新領域としてどこまでを対象にするかということにより、投資検討の対象となる投資機会が変わってきますが、投資機会が増えるという意味で財務リターン実現の可能性が高くなります。すなわち戦略リターンの対象の拡大が投資機会の増加につながり、財務リターン実現の可能性を高めることになります。また、新領域開拓のため投資先であるスタートアップからの情報や市場、技術に関する洞察などを戦略リターン実現に活用するために、CVCチームとしては親会社においてビジネスユニットだけではなく経営計画などを策定している企画的なチームとの連携も必要となり、CVCの取り組みがより全社的なものになることが期待されます。
ここまでは主に投資機会の範囲という視点で戦略リターンと財務リターンの関係を見てきましたが、CVCが取りうるリスクとリターンという観点で両者の関係を見てみたいと思います。財務リターンを重視する場合には、投資検討段階でバリュエーションの妥当性を検証しますが、そのためにスタートアップの事業計画を精査することになります。これによりそのビジネスの成長性や会社の継続性を確認することになり、スタートアップの倒産という将来のダウンサイドリスクの低減につながるとともに、スタートアップの成長により親会社の戦略リターン実現の可能性が高まります。親会社には投資対象としている分野の専門家がいますので、スタートアップの技術や事業をより深く評価することができDDの質が向上します。財務リターン重視の方針があれば、スタートアップの成長性の評価することにより倒産リスクの低減にもつながり、ポートフォリオの質がさらに向上することになります。また、親会社のリソースを使ってスタートアップの成長の支援を行うことは、財務リターンのさらなる拡大にも寄与します。この観点からみると戦略リターンと財務リターンはお互いに補強し合う関係とみることもできるかもしれません。