CVCの目的の明確化

CVCを推進するにあたっては、その目的を明確にする必要があります。企業の中に存在する組織にはそれぞれの存在意義があると思いますが、CVCについてもそれを明確に定義しておくことが重要です。CVCの目的を定義するにあたってはいろいろな視点がありますが、実現したいこととして戦略リターンと財務リターンがあるとすると、例えば下記のような整理も考えられます。
(1) 戦略リターンの定義 
 ・経営レベル:新しい領域の開拓
 ・事業レベル:現在の事業とのシナジー追及
(2) 財務リターンの定義
 ・ファンド:ファンドのパフォーマンス
 ・本体投資:財務的運用の視点(P/L重視あるいはB/S重視)
(3) 戦略リターンと財務リターンの優先順位
 ・戦略リターン優先:親会社の戦略を投資方針に反映
 ・財務リターン優先:財務リターン追及、戦略リターンは副産物

(1)の戦略リターンについては、経営レベルの戦略リターンと事業レベルの戦略リターンを考えることができます。経営レベルでは、CVCの成果を企業の経営判断にどのように活用するかという視点から、将来の戦略的選択肢を増やすための情報や洞察を獲得することを目指します。これは現在の事業の領域ではなく、新しい領域での事業機会を創出することにつながります。事業レベルでは、投資したスタートアップとの関係性から、共同イノベーションの機会創出、新たなサプライヤー、顧客、技術提携先などの関係構築、現在の製品やサービスのロードマップへの補完などが考えられます。これらは現在の親会社のビジネスユニットとCVCの密な連携の中から生み出されるものになります。
(2)の財務リターンについては、ファンドで行っている場合はファンドのパフォーマンスで評価することになります。本体投資の場合は、初回投資の時期によって仮想的なファンドとして評価することも可能ですが、P/LかB/Sのどちらを重視するかで財務リターンが異なってきます。P/S重視の場合は、期間損益で評価することになりますので、売却可能な保有株式は基本的には売却して利益を確定することになります。B/S重視の場合は、IPO後の継続保有を前提にB/S上の保有資産を評価することになります。継続保有することにより、IPO後も投資先が成長し続けた場合は、その成長を投資収益に反映することができます。この場合は、財務的な運用として保有株式を売却して得た資金を新しい投資に振り向けることも選択肢として入ってくることになり、いわゆるキャピタルリサイクルのような運用が可能となります。
(3)の戦略リターンと財務リターンの優先順位については、戦略リターン優先(戦略リターン第一、財務リターン第二)のケースでは、親会社の戦略をCVCの投資方針に反映し、CVCも親会社の戦略を十分理解した上で投資を進めることになります。経営レベルの戦略リターンを実現するために、親会社にとって今後重要となる市場や技術分野を特定し、それに該当するスタートアップを探索することになります。事業レベルの戦略リターンを実現するためには、ビジネスユニットのニーズも確認しながら、現在の事業を補完、強化できるようなスタートアップを探索することになります。投資方針に親会社の戦略を反映させますので投資機会は限定されますが、その中から設定している財務規律に基づいて投資検討することになります。財務リターン優先(財務リターン第一、戦略リターン第二)のケースでは、CVCの役割は親会社に財務リターンをもたらすことになります。この場合は、親会社が持つさまざまなリソース(資金、人材、技術など)をVC投資を通じてリターンを生み出す重要な資産とみなして、財務リターンを目的とした1つの事業としてCVCを推進することになります。CVCの投資を通じて獲得できる市場や技術に関する情報や洞察あるいは投資先との関係性は、親会社の戦略リターンを実現するために活用されることになりますが、それらはあくまで副産物であり、投資の前提条件となるものでありません。ただ、財務リターン優先のCVCでも、財務リターン実現のプロセスの中でさまざまな戦略リターンを実現しているCVCも存在します。

欧州のあるCVCは、親会社の事業に関連する中核分野を中心にディープテック系のスタートアップへの投資を長期間継続しています。アーリーステージが中心ですが、シードやレイトステージの投資も行っています。VCなどの他の投資家がリードしているシンジケートへの参加が基本ですが、スタートアップが親会社の戦略分野に密接に合致している場合などはリードあるいは共同リードとしてラウンドを主導することもあります。このCVCは戦略リターン優先で、新しい市場トレンドへのアクセス、親会社の将来の事業に関連する技術への関与、スタートアップとの新たなイノベーションに向けた連携などを戦略リターンとして想定しています。戦略リターン優先ではあるものの、このCVCではキャリー(成功報酬)が設定されており財務リターンを重視していることは明らかです。このCVCでは、長期間投資活動を継続できた要因の1つとしてCVCが存在する目的の明確化をあげており、それを親会社に常に理解してもらうことの重要性を強調しています。CVCを長期間継続するためには、その目的を明確にして親会社とCVC双方がそれをきちんと理解しておくことが重要であると考えられます。