CVCはその名の通り、事業会社が戦略リターンを実現するためにVC投資を行うことを意味していますが、どの程度通常のVCに近い取り組みをしているかについてはケースバイケースです。ここでは、CVCの取り組みの内容が通常のVCから遠い(VCレベルが低い)ケースと通常のVCに近い(VCレベルが高い)ケースに分けて考えてみたいと思います。VCレベルと言ってもどのように評価するのかは非常に難しく単純に分類できるものではありませんが、VCはLPから預かった資金をスタートアップに投資をして、エグジットを通じて資金回収してLPに分配するという財務リターンを実現することが最大の目的であるため、財務リターンをどの程度重視しているかという点に着目したいと思います。
(1) VCレベルが低いケース
VCレベルが低い場合は、通常のVCの主目的ある財務リターンが重視されませんので、戦略リターン重視の取り組みになるかと思います。オープンイノベーションのような外部リソースの有効活用という視点から考えると、スタートアップとの協業がCVCの主目的となり、それを実現する手段としてVCの投資(出資)するというケースが多くなります。このケースでは、親会社の現在の事業あるいはその周辺分野のスタートアップを主に探索することになり、ビジネスユニットとの連携の中で戦略リターンの実現を目指すことになります。この場合の課題の1つは、スタートアップとの関係構築の手段である出資が、CVCの主目的である戦略リターン(協業)の実現に紐づかないということです。そのため、出資の必要性が議論されることになり、投資活動そのものが推進されにくい状況になってしまうケースもあります。この場合のCVCの取り組みは下記のように表現できるかもしれません。
CVC=①戦略リターン(狭義:協業重視)+②VC(出資前提)
(2) VCレベルが高いケース
VCレベルが高い場合は、財務リターンを重視する姿勢が強くなります。財務リターンを重視するということは、通常のVCが行っているように投資検討時にリスクに見合うマルチプルが期待できるかどうかという視点でバリュエーションを評価します。このバリュエーションの評価はそのスタートアップの成長性の評価にもつながり、そのスタートアップが成長する過程で株主としていろいろな情報、ネットワークなどを得ることが期待されます。親会社においては戦略リターンを協業に限定せずに広義にとらえ、CVCから得られる新しい領域における情報や洞察を親会社の将来の戦略的選択肢の検討に活用することになります。米国のあるネット大手のCVCでは、投資を担当する投資チームの役割は親会社に財務リターンをもたらすことであり、投資分野も親会社の戦略にはまったく影響されず、意思決定も含めて親会社から完全に独立した形で通常のVCと同じようにスタートアップへの投資を行っています。投資先を親会社につなぐ事業開発チームにおいては、その勤務時間のかなりの部分を親会社との打合せに費やして、スタートアップと親会社の関連部署あるいは専門家がコミュニケーションする機会を作っています。この場合のCVCの取り組みは下記のように表現できるかもしれません。
CVC=①VC(通常)+②戦略リターン(広義)
考えてみれば、VCはスタートアップへ投資するファンドの運用という私的な利益追求のプロセスを通じて、新しい産業の育成や新たな雇用の創出という社会的価値を作り出しています。その視点からCVCを見ると、VCレベルを高くして財務リターンを実現しながら、CVCの取り組みを通じて得られる情報、ネットワーク、スタートアップとの関係性などのあらゆる要素を、親会社のイノベーションの推進に活用していくことと考えることができます。親会社の現在の事業に近い分野であれば協業も含めビニネスユニットとの連携をしながら戦略リターンを実現することになり、新しい領域の分野であれば獲得できる情報や洞察は将来の選択肢を検討するための経営判断の材料とみることもできます。VCレベルを高くすることは、起業家や通常のVCとインセンティブを整合させコミュニティの中で良い投資家として評価されることにつながり、さらに有望な投資案件にアクセスできるという好循環を作ることができる可能性が高まります。
国内CVCにおけるVCレベル

